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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2116号 判決 1975年12月10日

控訴人 操原昭義

右訴訟代理人弁護士 三神武男

被控訴人 多田建設株式会社

右訴訟代理人弁護士 三浦久三郎

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、三五九万四〇〇〇円及び三七四万四〇〇〇円に対する昭和四一年一一月二九日から同四二年五月五日まで、三五九万四〇〇〇円に対する同月六日から完済まで、各年六分の金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

この判決の第二項は、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり附加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴代理人の主張)

(一)本件貸金の債務者は東京絨氈株式会社であって控訴人ではない。右会社は事業資金を得るため、岩田邦夫及び控訴人を手形保証人とする自己提出にかかる約束手形三通を被控訴人に交付するとともに、被控訴人から同人提出の約束手形三通を受取り、右手形はいずれも東京絨氈株式会社の取引銀行で割引かれて、同会社の事業資金に充当された。

(二)本件貸金債権の内入弁済として三〇〇〇円あて二回支払ったのは、株式会社東京絨氈であって控訴人ではない。すなわち東京絨氈株式会社の倒産後株式会社東京絨氈が設立され、同会社は東京絨氈株式会社と同一内容の営業を始めたが、被控訴人は株式会社東京絨氈に対し、株式会社東京絨氈が東京絨氈株式会社に代って同会社の貸金債権について月三〇〇〇円あてでも弁済するならば、二ヶ月後に被控訴人は株式会社東京絨氈に内装工事等の下請をさせるから、その収益の中から三分の一あて、東京絨氈株式会社に対する貸金債権の返済に廻して欲しい旨の申入をなし、株式会社東京絨氈は右申入を承諾した結果、昭和四五年七月九日及び同年八月一二日に各三〇〇〇円を支払ったのである。従って右内入弁済は株式会社東京絨氈が東京絨氈株式会社に代ってしたものであって、控訴人がなした内入弁済ではないから、控訴人に対し消滅時効中断の効力が及ぶいわれはないが、仮に本件貸金の債務者が控訴人であって、控訴人において内入弁済をしたものであったとしても、三〇〇〇円あて二回弁済しただけで、貸金全額の債務を承認したものとは認め難く、せいぜい弁済した六〇〇〇円につき時効の利益を放棄したに過ぎない。

(三)被控訴人は昭和四二年五月ころ、株式会社東京絨氈に対し、内装工事等の下請をさせるから、その収益の中から三分の一あてを本件貸金債権の返済に廻して欲しい旨の申入をなし、株式会社東京絨氈は右申入を承諾した結果、被控訴人から一五万七〇〇〇円相当の内装工事を請負い、これを完成させたところ、被控訴人はその報酬金一五万七〇〇〇円を株式会社東京絨氈に支払わないで、全額本件貸金債権の弁済の一部に充当した。

(被控訴代理人の主張)

右主張事実は否認し、法律的効果に関する主張は争う。

(証拠)<省略>

理由

一、<証拠>によると、被控訴人は昭和四一年七月五日東京絨氈株式会社、岩田邦夫とともに控訴人を連帯債務者として、三七五万円を弁済期はうち一二五万円につき同年九月二八日、うち一二五万円につき同年一〇月二八日、うち一二五万円につき同年一一月二八日と定めて貸渡すこととし、右貸金の弁済のために、東京絨氈株式会社、岩田邦夫及び控訴人共同振出にかかる額面一二五万円の約束手形三通の交付を受けるとともに、現金の交付に代え、各額面一二五万円、受取人東京絨氈株式会社、そして満期を昭和四一年九月三〇日、同年一〇月三〇日、及び同年一一月三〇日とする約束手形三通を振出し、右各手形は東京絨氈株式会社の取引銀行で割引かれて、同会社の事業資金に充当され、そして右各手形金は各満期に支払われたことが認められ、右証人及び右被控訴人代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲証拠と対比し、措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右事実によると、被控訴人は昭和四一年七月五日東京絨氈株式会社、岩田邦夫とともに、控訴人を連帯債務者として、三七五万円を弁済期はうち一二五万円につき同年九月二八日、うち一二五万円につき同年一〇月二八日、うち一二五万円につき同年一一月二八日と定めて、貸渡したものというべきである。

二、被控訴人が会社であることは当事者間に争いがないところ、被控訴人が本訴を提起した昭和四八年一〇月五日には、すでに本件貸金債権の最終弁済期である同四一年一一月二八日から五年を経過しているから、控訴人の連帯債務者としての義務は時効により消滅するはずであった。

三、ところが<証拠>をあわせると、東京絨氈株式会社の倒産後、株式会社東京絨氈が設立され、同会社は東京絨氈株式会社と同一内容の営業を始めたが、被控訴人は株式会社東京絨氈に対し、同会社が東京絨氈株式会社に代って東京絨氈株式会社の貸金債権につき月三〇〇〇円あてでも返済するならば、被控訴人は株式会社東京絨氈に内装工事等の下請をさせるから、その収益のうち二ないし三パーセントあて、東京絨氈株式会社に対する貸金債権の返済に廻して欲しい旨の申入をなし、株式会社東京絨氈は右申入を承諾した結果、昭和四五年七月九日及び同年八月一二日に各三〇〇〇円あて支払ったこと、株式会社東京絨氈が右支払をするについては、東京絨氈株式会社の代表取締役であった控訴人が、株式会社東京絨氈の従業員とともに被控訴人の事務所を訪れて支払ったものであることが認められ、右証人池田修の証言、右被控訴人代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲証拠と対比し措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右事実によると、株式会社東京絨氈が二回にわたり各三〇〇〇円を支払ったのは、東京絨氈株式会社の債務の弁済としてであって、控訴人の債務について内入弁済したものではないけれども、しかし右会社が弁済するについては、東京絨氈株式会社の代表取締役であり、かつ本件貸金の連帯債務者の一人である控訴人が、株式会社東京絨氈の従業員とともに被控訴人の事務所を訪れ、右内入弁済をしたのであるのであるから、このことにより控訴人自らの債務についても、これを承認したものと認めるのが相当である。そうすると、控訴人に対する貸金債務の消滅時効は、昭和四五年七月九日及び同年八月一二日に控訴人が自己の債務を承認したことによって中断されたものということができる。

右に関連し、控訴人は三〇〇〇円あて二回弁済しただけで、本件貸金全額の債務を承認したものとは認め難い旨主張する。しかし本件貸金債権が一個の債権であり、そして右内入弁済が本件貸金債権の一部についての弁済であることは明らかであるところ、たとえ内入弁済額が貸金全額に対比し小額であったとしても、右内入は本件貸金債権全額について時効中断の効力を生ずるのであるから、控訴人の右主張は理由がない。

四、前掲<証拠>によれば、被控訴人は昭和四二年春、株式会社東京絨氈に対し、内装工事等の下請をさせるから、その収益の中から二ないし三パーセントあてを、東京絨氈株式会社の貸金債権の弁済に廻して欲しい旨の申入をなし、株式会社東京絨氈は右申入を承諾し、その結果同年五月被控訴人から一五万円相当の内装工事を請負いこれを完成させたこと、しかるに被控訴人は右報酬金を株式会社東京絨氈に支払わないで、同月六日これを東京絨氈株式会社に対する貸金債権の返済の一部に充当したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。そうすると、右内入弁済は連帯債務者の一人である控訴人の債務についても、その効力が及ぶことはいうまでもない。

五、されば控訴人は被控訴人に対し、貸金三七五万円から被控訴人が三回にわたりすでに弁済した計一五万六〇〇〇円を控除した残金三五九万四〇〇〇円及び右三七五万円から右内入弁済金六〇〇〇円を控除した三七四万四〇〇〇円に対する弁済期後である昭和四一年一一月二九日から、右一五万円を内入弁済した日の前日である同四二年五月五日まで、右残金三五九万四〇〇〇円に対する右内入弁済の日である同月六日から完済まで、各商事法定利率年六分(被控訴人が会社であることは当事者間に争いがない)の金員を支払うべき義務があるが、その余の義務のないことが明らかである。

六、よって被控訴人の本訴請求を右の限度で認容してその余を棄却し、これと異なる原判決を右の趣旨に従い変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 田畑常彦 大前和俊)

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